応募したら、いつの間にかエージェント登録になっていた。
求人サイトでよさそうな求人を見つけて応募したはずが、届いたのは人材紹介会社からの面談案内だった。そもそもあの求人は実在したのか。
求人票の嘘には、明確に違法なものと、グレーだが合法なものがあります。線引きを知っていれば、どこまでが我慢すべきことで、どこからが申し出ていいことなのかが分かります。
この記事では、条文で違法性の基準を示したうえで、実際の見分け方と、嘘だと分かったときの具体的な対処・通報先までまとめます。
📖 この記事でわかること
- 求人票の嘘はどこから違法になるか(職業安定法65条)
- 罰則があるのに、ほとんど適用されていない理由
- 「釣り求人」の見分け方と、応募後にエージェント登録になる仕組み
- 入社後に条件が違ったら即日で辞められる条文(労働基準法15条)
- ハローワークと民間求人、それぞれの通報先
求人票の嘘はどこから違法か|職業安定法65条

「求人票が嘘でも、どうせ何の罰もないのだろう」と思われがちですが、条文上はそうではありません。
求人票の嘘って、そもそも法律で禁止されてるの?
されています。しかも罰則付きです。ただ、実際に適用された例がほとんどないという別の問題があります。
罰則の中身|6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
職業安定法65条は、虚偽の広告をし、または虚偽の条件を提示して、職業紹介・労働者の募集・労働者の供給を行った者に対して、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を定めています。
「虚偽の広告」は存在しない求人を載せること、「虚偽の条件」は賃金や勤務地などを実際と違う内容で示すことにあたります。
求人票の嘘は、道義的な問題ではなく刑事罰の対象です。ここは押さえておいてください。
2018年の改正で、募集した企業自身も対象になった
もともとこの罰則は、仕事をあっせんする職業紹介事業者が主な対象でした。求人を出した企業そのものは含まれていなかったのです。
2018年の職業安定法改正により、虚偽の求人申込みをした求人者(募集企業)も罰則の対象になりました。
「うちは紹介会社ではないから関係ない」という言い分は、現在は通りません。
それでも、ほとんど摘発されていない
ここが現実です。罰則規定があるにもかかわらず、実際の適用例はほとんどありません。
理由は立証の難しさにあります。「募集時点では本当にその条件で採用するつもりだったが、事情が変わった」と言われると、最初から嘘をつく意図があったことを示すのが難しいためです。求人票と契約書が違うだけでは、直ちに犯罪として立件されません。
だから、通報して解決するのを待つより、応募前に見分けるほうが早い、という結論になります。
よくある嘘のパターン|違法・グレーの仕分け


「嘘」と一括りにされがちですが、性質は違います。申し出て意味があるものと、書き方の問題にすぎないものを分けます。
| ケース | 位置づけ | どうなるか |
|---|---|---|
| 存在しない求人を掲載 | 違法 | 虚偽の広告。職安法65条の対象 |
| 求人票より低い賃金を提示された | 違法の疑い | 虚偽の条件提示。申し出の対象になる |
| 正社員募集のはずが契約社員だった | 違法の疑い | 雇用形態の相違。争われた裁判例もある |
| 「月給30万円可」で実際は22万円 | グレー | 上限表示。違法と言い切るのは難しい |
| 固定残業代が含まれていた | グレー〜適法 | 明示があれば適法。読み落としの問題 |
| 紹介会社が自社名で求人を掲載 | 適法 | 許可を得ていれば正規の職業紹介 |
給与・雇用形態の嘘がいちばん争いになる
申し出やトラブルで最も多いのが、この2つです。
賃金は「求人票より低い額を面接で提示された」、雇用形態は「正社員と聞いて応募したのに、契約社員としての採用だった」という形で表れます。どちらも求人票の記載と実際の条件が食い違っているので、虚偽の条件提示にあたる可能性があります。
ただし、面接の場で新たな条件を提示され、それに同意して入社してしまうと争いにくくなります。その場で納得できないなら、持ち帰って構いません。
「可」「最大」「〜まで」は嘘ではないが情報でもない
「月給40万円可」「年収600万円も可能」という書き方は、上限を示しているだけで虚偽とは言えません。ごく一部の人が到達していれば成り立つ表現だからです。
判断材料にすべきは下限のほうです。求人票に幅があるなら、下限の額で生活できるかを基準にしてください。上限は、自分がその額をもらえる根拠にはなりません。
下限で見ると今より下がる、という場合にどこまで許容するかは、別記事で基準の作り方を整理しています。
給与欄の内訳、とくに基本給と手当の切り分け方は、そのまま賞与や残業代の金額に響きます。




釣り求人|そもそも採用する気のない求人


条件の食い違いとは別に、「その求人自体が募集を終えている、あるいは最初から存在しない」というケースがあります。いわゆる釣り求人です。
なぜ採用しない求人を出すのか
目的は登録者を集めることです。人材紹介会社や派遣会社にとって、登録している求職者の数はそのまま商品になります。
条件のよい求人を出しておけば応募が集まり、応募者は登録手続きに進みます。元の求人が埋まっていても、登録さえしてもらえれば別の求人を紹介できる、という発想です。
掲載側にとっては合理的ですが、応募する側は時間を取られます。存在しない求人の掲載は虚偽の広告にあたりますが、前述のとおり立証が難しく、実際に処分される例は多くありません。
応募前に見分ける3つのサイン
・同じ内容の求人が長期間ずっと出ている(本当に採用していれば埋まる)
・勤務地が「〇〇県全域」など極端に広い、職種が「オフィスワーク全般」のように曖昧
・掲載元が企業名ではなく人材会社名で、具体的な社名が伏せられている
3つ目は違法ではありません。ただし応募=その会社への登録になる可能性が高い、というサインとして読めます。
応募したらエージェント登録になっていた場合
求人サイトには、企業が直接出している求人と、人材紹介会社が出している求人が混在しています。後者に応募すると、その会社経由の応募という扱いになり、求職者登録が発生します。これ自体は正規の職業紹介の流れで、違法ではありません。
詐欺かどうかを分ける確認点は次の3つです。
① 許可番号があるか。`13-ユ-301234` のような形式で、頭2桁が都道府県番号、「ユ」は有料職業紹介の意味です。
② 実在するか。厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で許可番号や社名を検索できます。ヒットしなければ無許可業者です。
③ 金銭を請求されないか。有料職業紹介事業者が求職者から手数料を取ることは、職業安定法32条の3第2項で原則禁止されています。例外は芸能家やモデルなど省令で定められた一部職種だけで、通常の転職では該当しません。
⚠️ 面談の冒頭で必ず聞くこと
「応募した〇〇の求人は、今も募集中ですか」
この一問で判別できます。明確に答えられるなら正常な紹介です。話をそらす、別の求人の説明を始める、という反応なら、目的は求人紹介ではなく登録者集めだったということになります。
その場合も面談自体は無料なので、被害にはなりません。時間を使いすぎないうちに切り上げれば十分です。
登録になること自体が悪いわけじゃないんだね。お金を取られなければ大丈夫、と。
嘘だと分かったときの対処|段階別


気づいた時点によって、取れる手が変わります。入社後でも打てる手があります。
面接・内定の段階なら|書面で出してもらう
求人票と違う条件を提示されたら、その場で承諾せず、労働条件通知書などの書面で提示を求めてください。
口頭のやり取りは後から争えません。書面があれば、求人票との差がそのまま証拠になります。
この段階で辞退するのが、いちばん損失が小さい選択です。提示条件で納得できないなら、辞退して問題ありません。
入社後に違っていたら|即日で辞められる
ここは知られていませんが、強い条文があります。
労働基準法15条2項は、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。通常の退職で必要な2週間を待つ必要がありません。
さらに同条3項では、就業のために住居を変えた労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、必要な旅費を使用者が負担しなければならないとされています。
条件が違ったせいで引っ越しが無駄になった、というケースを救うための規定です。使う場面は限られますが、地方採用や転居を伴う転職では効きます。
通報先|求人の出どころで窓口が変わる
どこに言えばいいか分からず放置されがちですが、窓口は求人の出どころで決まります。いずれも申し出は無料です。
個別の求人が即座に消えるわけではありません。ただし同じ会社への申し出が重なれば、指導の対象になります。
| 状況 | 窓口 | 備考 |
|---|---|---|
| ハローワークの求人と実際が違う | ハローワーク求人ホットライン 03-6858-8609 | 8:30〜17:15・土日祝も受付(年末年始を除く)。ハローワークが事実を確認し会社へ是正指導 |
| 民間の求人サイト・紹介会社 | 都道府県労働局 | 職業紹介事業の指導監督を担当 |
| 入社後の労働条件のトラブル | 労働基準監督署 総合労働相談コーナー | 無料・匿名でも相談可 |
| 事業者が実在するか調べたい | 人材サービス総合サイト (厚生労働省) | 許可番号・社名で検索できる |
応募前に防ぐ|確認するのはこの4点


通報より、引っかからないほうがはるかに労力が小さくて済みます。応募前にできることを絞ります。
✅ 応募していいサイン
- 企業名が明記されている
- 給与の下限が具体的
- 勤務地・職種が特定されている
- 掲載が定期的に入れ替わっている
❌ 確認が必要なサイン
- 社名が伏せられている
- 給与が「〜可」の上限表示のみ
- 勤務地が県全域など広すぎる
- 同じ求人が半年以上出ている
求人票そのものを読めるようにしておく
求人票の記載事項は職業安定法施行規則で決まっています。何が書かれていなければならないかを知っていれば、書かれていないこと自体が判断材料になります。
2024年4月からは「業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「更新の基準」の明示も加わりました。これらが曖昧な求人は、入社後の条件も曖昧になりがちです。


求人票から読み取れないことは、人に聞くしかない
実際の残業時間、離職率、配属予定の部署の状況。これらは求人票には書かれません。
転職エージェントを使うと、担当者が企業とやり取りしている分、求人票に出ていない情報を応募前に確認できる場合があります。求人が本当に募集中かどうかも、その場で分かります。
エージェントを選ぶときも、ここまでに書いた許可番号の確認は同じように行ってください。正規の事業者であれば、許可番号はサイトに明記されています。
行政の取り締まりを待つより、下限の金額と社名の有無を見るほうが早いです。応募する前の5分で、だいたい避けられます。
よくある質問


求人票の嘘は本当に違法なのですか?
職業安定法65条により、虚偽の広告をし、または虚偽の条件を提示して職業紹介や労働者の募集を行った者には、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。
2018年の改正で、求人を出した企業自身も罰則の対象になりました。ただし「最初から嘘をつく意図があった」ことの立証が難しく、実際に適用された例はほとんどないのが現状です。
応募したら勝手にエージェント登録になっていました。詐欺ですか?
その求人を人材紹介会社が出していた場合、応募がその会社経由の扱いになり登録が発生します。これは正規の職業紹介の流れで、違法ではありません。
確認すべきは、許可番号があるか、厚生労働省の人材サービス総合サイトで実在を確認できるか、金銭を請求されないかの3点です。
有料職業紹介事業者が求職者から手数料を取ることは職業安定法32条の3第2項で原則禁止されています。
入社してから条件が違うと分かりました。すぐ辞められますか?
労働基準法15条2項により、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。通常の退職で必要な2週間を待つ必要はありません。
また同条3項では、就業のために住居を変えた人が解除の日から14日以内に帰郷する場合、必要な旅費を使用者が負担することとされています。求人票や労働条件通知書は捨てずに保管しておいてください。
「月給30万円可」と書いてあったのに22万円でした。違法ですか?
「可」「最大」「〜まで」という表現は上限を示しているだけなので、虚偽と言い切るのは難しいのが実情です。一部の従業員が到達していれば成り立つ表現だからです。
一方、求人票に「月給30万円」と断定的に書かれていたのに低い額を提示された場合は、虚偽の条件提示にあたる可能性があります。表記が断定なのか上限なのかで扱いが変わります。
通報したら、その会社にこちらの名前が伝わりますか?
ハローワーク求人ホットラインでは、申し出を受けたハローワークが事実を確認したうえで会社に是正指導を行います。申し出の際に名前の扱いについて希望を伝えることができます。
労働基準監督署の総合労働相談コーナーは匿名でも相談できます。不安がある場合は、相談の最初に「会社に名前が伝わらないようにしてほしい」と伝えてください。
まとめ


✅ まとめ:求人の嘘への向き合い方
- 虚偽の求人は職安法65条で6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。2018年改正で企業も対象
- ただし立証が難しく、適用例はほとんどない。行政に期待するより自衛が現実的
- 「可」「最大」は上限表示で違法とは言いにくい。判断は下限の額で行う
- 釣り求人の目的は登録者集め。社名が伏せられている求人は登録前提と読む
- エージェント登録自体は適法。許可番号・実在確認・金銭請求の有無で判断する
- 入社後に条件が違えば、労基法15条2項で即時に契約を解除できる
- ハローワーク求人は求人ホットライン(03-6858-8609)、民間は労働局へ
参考・出典:職業安定法65条(虚偽の広告等に関する罰則)/職業安定法32条の3第2項(求職者からの手数料徴収の原則禁止)/労働基準法15条2項・3項(労働条件相違による契約解除と帰郷旅費)/厚生労働省「ハローワークの求人票の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出」(ハローワーク求人ホットライン 03-6858-8609)/厚生労働省「人材サービス総合サイト」。いずれも2026年9月16日に確認。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。具体的な事案については、都道府県労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー、または弁護士にご相談ください。









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