給料は上がったのに、手取りが変わらない。
税金と社会保険料が重い、という実感は数字でも裏づけられます。ただし「毎年上がり続けている」という話ではありません。国民負担率そのものは、直近3年は下がっています。
問題は変化ではなく水準です。1970年度と比べると、負担率はほぼ倍になりました。しかもその伸びを作ったのは税ではなく社会保険料です。
この記事では、財務省の推移データと令和8年度の実際の保険料率を使って、自分の給与明細から何%が引かれているのかまで落として整理します。
📖 この記事でわかること
- 国民負担率は56年でどれだけ上がったか(25.7%→45.7%)
- 伸びの主役が税ではなく社会保険料である理由
- 日本は世界一高いのか(6か国の実数比較)
- 令和8年度に自分の給与から引かれる保険料率の合計
- 賃上げされても手取りが増えない仕組み
56年で負担率はほぼ倍になった|伸びの主役は社会保険料

国民負担率は、税と社会保険料の合計が国民所得の何%にあたるかを示す数字です。財務省が毎年公表しています。
負担が重いって言うけど、昔からこんなもんじゃないの?
まったく違います。1970年度は25.7%でした。今の45.7%と比べると、国民所得に対する負担の割合が20ポイント増えています。
| 区分 | 昭和45年度 (1970年度) | 令和8年度 (見通し) | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 租税負担率 | 18.3% | 28.0% | 約1.5倍 |
| 社会保障負担率 | 7.5% | 17.6% | 約2.3倍 |
| 国民負担率(合計) | 25.7% | 45.7% | 約1.8倍 |
税ではなく保険料が増えた
表を見ると、租税負担率は18.3%から28.0%で約1.5倍です。一方、社会保障負担率は7.5%から17.6%へと約2.3倍になっています。
「税金と社会保険料が重い」という実感の中身は、正確には社会保険料の話です。増税は話題になりますが、保険料の上昇は給与明細の控除欄で静かに進みます。声が上がりにくい分だけ、積み上がりやすい負担でもあります。
直近3年はむしろ下がっている
意外に思われるかもしれませんが、国民負担率は令和6年度46.7%(実績)、令和7年度46.1%(実績見込み)、令和8年度45.7%(見通し)と3年連続で低下しています。過去のピークは47.3%でした。
ただしこれは負担額が減ったことを意味しません。国民負担率は「負担額÷国民所得」なので、分母の国民所得が名目で伸びれば、負担額が増えていても率は下がります。
率の低下と手取りの実感がずれるのは、この構造のためです。
財政赤字を含めると48.4%
財務省は、国民負担に財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」も公表しています。令和8年度の見通しは48.4%です。令和6年度は50.3%で、5割を超えていました。
財政赤字は将来の税か保険料で埋めることになるため、こちらは「今は請求されていない負担」を含んだ数字だと考えられます。
なぜ社会保障負担だけが増えたのか
保険料は、給付の裏側にあるものです。給付が増えれば、それを支える保険料も増えます。
厚生労働省の資料では、社会保障給付費は2026年度(予算ベース)で144.1兆円、対GDP比20.8%とされています。年金・医療・介護が中心で、受給する人が増えれば総額も増える構造です。
つまり社会保障負担率の上昇は、政策的な増税とは性質が違います。給付の対象が増えたことの結果として、支える側の負担が上がってきたという流れです。
この点は、負担を「取られている」だけで捉えると見えなくなります。ただし支える側にとっては、負担が重いという事実は変わりません。
日本は世界一負担が重いのか|6か国の実数


ここは誤解が多いところです。財務省が公表している国際比較を、そのまま並べます。
| 国 | 国民負担率 (対国民所得比) |
|---|---|
| フランス | 64.8% |
| スウェーデン | 55.2% |
| ドイツ | 53.4% |
| イギリス | 49.8% |
| 日本 | 45.7% |
| アメリカ | 34.2% |
数字の上では中位。世界一ではない
日本の45.7%は、アメリカの34.2%より11ポイント以上高い一方、イギリス・ドイツ・スウェーデン・フランスより低い水準です。「日本は世界一負担が重い」は、この指標では成り立ちません。
日本は令和5年度(2023年度)実績、諸外国は2023年の数値です(財務省がOECD資料等をもとに2026年1月に取得)。
それでも実感が重い理由は「戻り」の差
負担率が日本より高い国は、その代わりに受け取るものも違います。大学までの学費、医療、家族向けの手当や育児支援の設計が、負担の重さに対応しています。
負担率という1つの数字は、いくら取られるかしか表していません。何が返ってくるかは含まれていません。日本の負担が「重く感じる」という実感は、水準そのものより、負担の伸び方と戻ってくる実感の差から来ている部分が大きいと考えられます。
この記事では、その評価には踏み込みません。ここから先は、自分の給与明細でいくら引かれているかという、確認できる話に移ります。
「対国民所得比」と「対GDP比」で数字が変わる
国民負担率の数字が資料によって違って見えることがあります。多くは分母が違うだけです。
財務省が公表する国民負担率は、原則として対国民所得比です。国民所得はGDPより小さい金額なので、同じ負担額でも対GDP比にすると率は低く出ます。
「日本の負担率は実はもっと低い」「いや、もっと高い」という主張が並ぶときは、どちらの分母を使っているかを確認してください。国際比較をするなら、分母を揃えた表で見る必要があります。
この記事の数字はすべて対国民所得比で揃えています。
給与明細でいくら引かれているか|令和8年度の料率


マクロの話は自分の財布と結びつきにくいので、実際の料率に置き換えます。会社員が負担する社会保険料は5種類です。
本人が負担する5つの保険料
厚生年金・健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金は労使折半なので、本人負担は率の半分です。雇用保険は労使で率が違います。
以下は令和8年度の率です。健康保険(協会けんぽ)は都道府県ごとに異なるため、ここでは10.0%と仮定しています。
| 保険料 | 料率(全体) | 本人負担分 |
|---|---|---|
| 厚生年金 | 18.3%(固定) | 9.15% |
| 健康保険(協会けんぽ) | 都道府県別・仮に10.0% | 5.0% |
| 介護保険(40〜64歳) | 1.62%(全国一律) | 0.81% |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23%(全国一律) | 0.115% |
| 雇用保険(一般の事業) | 13.5/1,000 | 0.5% |
| 本人負担の合計 | — | 約15.6% |
月給別の概算|社会保険料だけで消える額
上の合計率15.575%で計算した概算です。ここに所得税と住民税は含まれていません。社会保険料だけの金額です。
実際の保険料は標準報酬月額の等級で決まるため、月給そのものに率を掛けた額とは多少ずれます。40歳未満は介護保険料がないので、合計は約14.8%になります。
| 月給(額面) | 社会保険料 (40歳以上・概算) | 年間 |
|---|---|---|
| 20万円 | 約31,200円 | 約37万円 |
| 25万円 | 約38,900円 | 約47万円 |
| 30万円 | 約46,700円 | 約56万円 |
| 40万円 | 約62,300円 | 約75万円 |
| 50万円 | 約77,900円 | 約93万円 |
控除欄の各項目が何を意味しているかは、給与明細の構造から整理した記事があります。


2026年4月から加わった「子ども・子育て支援金」
今年から控除欄に増えた項目があります。子ども・子育て支援金制度が2026年4月に始まりました。公的医療保険に上乗せして徴収される仕組みで、被用者保険の支援金率は令和8年度0.23%(全国一律・労使折半)です。
月給30万円なら本人負担は月345円程度です。金額としては小さいものの、この制度は2026年度から2028年度にかけて段階的に引き上げられる予定とされています。
なお協会けんぽの健康保険料率と介護保険料率は、令和8年3月分(4月納付分)から改定されました。介護保険料率は1.59%から1.62%へ引き上げ、健康保険料率は都道府県別で引き下げまたは据え置きです(最も高いのは佐賀県の10.55%)。雇用保険の労働者負担は5.5/1,000から5/1,000へ下がりました。
賞与からも同じ率で引かれる
見落としやすいのが賞与です。年3回以下の賞与は「標準賞与額」として、月給と同じように社会保険料の対象になります(上限があります)。
つまり賞与30万円が支給されても、そこからも社会保険料と所得税が引かれます。額面をそのまま使える前提で家計を組むと、毎回ずれます。
求人票に「賞与年2回」と書かれていても、手元に残るのは額面ではありません。年収を比較するときは、賞与も控除後で考えたほうが実態に近くなります。
上がるものと下がるものが同時にあるんだね。全部上がってると思ってた。
賃上げされても手取りが増えない仕組み


ここまでの数字を踏まえると、「率は下がったのに手取りが増えない」という状況が説明できます。理由は2つです。
理由1|率が固定でも、等級が上がれば天引きは増える
厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月で引き上げが終了し、以降は変わっていません。
それでも天引き額は増えます。保険料は「標準報酬月額 × 料率」で決まるため、賃上げで標準報酬月額の等級が1つ上がれば、率は同じでも保険料は増えるからです。
つまり賃上げの一部は、自動的に保険料の増加に吸収されます。率が固定であることは、負担額が固定であることを意味しません。
理由2|所得税は累進、住民税は前年の所得で決まる
所得税は所得が増えるほど税率の高い区分に入ります。増えた分に対して、それまでより高い率がかかるということです。
住民税は前年の所得をもとに計算されるので、収入が増えた翌年に負担が増えます。昇給した年ではなく、その次の年に手取りが目減りしたように感じるのはこの仕組みです。
賃上げ・等級上昇・翌年の住民税が重なると、名目の増加分が実感として残りにくくなります。
物価の側から見た手取りの目減りは、実質賃金という指標で確認できます。こちらは負担ではなく物価が主役の話です。


この水準を前提に、自分の手取りをどう考えるか


負担率は個人の努力では変えられません。変えられるのは、比べ方と選び方です。
額面ではなく、手取りと時間で比べる
額面がいくら増えても、社会保険料で約15%、さらに所得税と住民税が引かれます。額面の差がそのまま生活の差になることはありません。
転職で年収が50万円上がっても、手元に残るのはその全額ではありません。一方、通勤時間や残業時間の差は、税も保険料もかからずそのまま自分の時間として残ります。
負担率が高い環境では、額面より「手取り」と「拘束時間」で比べたほうが、判断を誤りにくくなります。
求人票の月給は、控除前の数字だと理解しておく
求人票に書かれた月給は額面です。ここから社会保険料と税が引かれます。固定残業代が含まれている場合は、その分も額面に入っています。
月給30万円の求人であれば、社会保険料で約4万7千円、さらに所得税と住民税が引かれた残りが手取りです。応募の段階でこの感覚を持っておくと、入社後のずれが小さくなります。
求人票の給与欄をどう読むかは、法定の記載項目から整理した記事があります。


負担率は自分では動かせません。だから比べ方を変えるほうが早いです。額面の差より、手取りと時間の差を見てください。
よくある質問


国民負担率とは何を表している数字ですか?
租税負担率と社会保障負担率を合計したもので、国民所得に対する割合で示されます。財務省が毎年度公表しており、令和8年度は45.7%の見通しです。
国民負担に財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」も同時に公表され、令和8年度は48.4%となっています。個人ごとの負担額ではなく、国全体をまとめて見た指標です。
負担率が下がっているのに、なぜ手取りが増えないのですか?
国民負担率は負担額を国民所得で割った率なので、分母である国民所得が名目で伸びれば、負担額が増えていても率は下がります。
さらに保険料は標準報酬月額の等級で決まるため、賃上げで等級が上がると率が固定でも天引き額は増えます。住民税は前年の所得で計算されるので、昇給の翌年に負担が増えます。
率の動きと手取りの実感は、必ずしも一致しません。
日本の国民負担率は世界的に見て高いのですか?
財務省の国際比較では、日本45.7%に対してアメリカ34.2%、イギリス49.8%、ドイツ53.4%、スウェーデン55.2%、フランス64.8%です(日本は令和5年度実績、諸外国は2023年)。
アメリカより高く、欧州主要国より低い水準で、世界一ではありません。ただし負担率は「いくら負担するか」しか示さないため、教育や医療などで何が返ってくるかは別に見る必要があります。
厚生年金保険料はこれからも上がりますか?
料率については、平成16年から続いた段階的な引き上げが平成29年9月で終了し、18.3%で固定されています。したがって料率がさらに上がる予定は現時点でありません。
ただし保険料は標準報酬月額に料率を掛けて計算するため、給与が上がって等級が上がれば負担額は増えます。料率の固定と負担額の固定は別の話です。
子ども・子育て支援金はいくら引かれますか?
被用者保険の支援金率は令和8年度は0.23%で全国一律、労使折半です。本人負担は標準報酬月額の0.115%にあたり、月給30万円なら月345円程度です。
2026年4月に始まった制度で、2026年度から2028年度にかけて段階的に引き上げられる予定とされています。実際の金額は加入している医療保険や報酬額で変わるため、給与明細の控除欄で確認してください。
まとめ


✅ まとめ:税と社会保険料の水準
- 国民負担率は1970年度25.7%から令和8年度45.7%へ、56年で約1.8倍
- 伸びの主役は社会保険料。社会保障負担率は2.3倍、租税負担率は1.5倍
- 直近3年は46.7%→46.1%→45.7%と低下。ただし分母の国民所得が伸びた結果でもある
- 国際的には中位。アメリカ34.2%より高く、フランス64.8%より低い
- 会社員の社会保険料は本人負担だけで約15.6%(40歳以上・概算)。税は別
- 料率が固定でも等級が上がれば天引きは増える。住民税は翌年に来る
- 変えられるのは比べ方。額面ではなく手取りと拘束時間で比較する
参考・出典:財務省「令和8年度の国民負担率を公表します」(2026年3月5日公表)/財務省「国民負担率(対国民所得比)の推移」/財務省「諸外国における国民負担率(対国民所得比)の内訳の比較」(日本は令和5年度実績、諸外国は2023年。OECD “Revenue Statistics” 等をもとに2026年1月取得)/日本年金機構「厚生年金保険の保険料」/厚生労働省「厚生年金保険料率の引上げが終了します」/全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率」/厚生労働省「令和8年度 雇用保険料率のご案内」/こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」。いずれも2026年9月16日に確認。
保険料の金額は、料率から計算した概算です。実際の保険料は標準報酬月額の等級・加入する医療保険・都道府県によって異なります。正確な金額はご自身の給与明細と加入先の料率表でご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。









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