最近の求人、どれを見ても固定残業代が付いている。
月給30万円と書いてあっても、よく読むと「固定残業45時間分を含む」。別の会社も、その次の会社も同じ。
これは偶然ではありません。企業側に、そうしたくなる明確な理由が4つあります。そしてその理由がわかると、どの求人が危なくてどの求人がそうでもないのかも、見分けがつくようになります。
この記事では、固定残業代が増えた背景を制度の側から整理したうえで、何時間からがやばいのか、実質の時給はいくらになるのかを計算で出します。
📖 この記事でわかること
- 求人に固定残業代が増えた4つの構造的な理由
- 20・30・40・45時間のどこから危ないのか(36協定との関係)
- 月給30万円・固定45時間の実質時給はいくらか
- 最高裁が示した「有効な固定残業代」の条件
- 求人票と面接で確認すべきポイント
なぜ最近の求人は固定残業代だらけなのか|企業側の4つの理由

読者の体感どおり、固定残業代を掲げる求人は目につきます。ただし「日本企業の何%が導入しているか」を継続的に調べた公的統計は存在しません。ここでは割合を断定せず、企業がそうしたくなる制度上の理由を4つに分けて説明します。
会社が得するから、っていう単純な話じゃないの?
得するのは間違いないけど、「どこで得するのか」を知ると求人の読み方が変わります。4つのうち3つは、ここ数年で条件が変わったものです。
理由1|求人検索の「月給ソート」で上に出るため
求人サイトは月給の金額で絞り込みや並べ替えができます。応募者が「月給28万円以上」で検索したとき、基本給24万円の会社は表示されず、基本給22万円+固定残業代8万円の会社は表示されます。
人手不足で応募が集まらない企業ほど、この見え方の差を無視できません。支払う総額を変えずに検索結果の順位だけ上げられるので、採用担当者にとっては手をつけやすい調整になります。
理由2|基本給を上げると、連動して全部が上がるから
ここが本丸です。基本給は単なる給与の一項目ではなく、他のいろいろな金額を決める土台になっています。残業代の単価、賞与(基本給の◯か月分)、退職金、社会保険料の等級。基本給を1万円上げると、これらが連鎖して上がります。
一方、固定残業代は賞与や退職金の算定基礎から外している企業が多く、残業代の計算基礎にも入りません。つまり「支給総額は上げたが、将来の固定費は上げていない」という状態を作れます。
求人の月給が上がっているのに手取りの実感が伴わない、という話の一因はここにあります。
この「土台としての基本給」の仕組みは、固定残業代を読み解くうえで前提になります。手当や賞与との関係は別記事で条文ベースに整理しています。


理由3|最低賃金の上昇と、残業単価の引き上げ
2026年度(令和8年度)の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円に改定されることが答申されました。前年度から56円の引き上げで、目安制度が始まった1978年度以降で2番目に大きい上げ幅です。最高は東京都の1,280円、最低は1,085円で、2026年10月1日から12月2日にかけて順次発効します。
さらに、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率50%が、2023年4月1日から中小企業にも適用されました(大企業は2010年から)。残業させるほど単価が跳ねる構造になっています。
賃上げの圧力と残業コストの上昇が同時に来た結果、「総額は上げる。ただし基本給ではなく固定残業代で」という選択をする企業が出てきます。
名目の賃金が上がっても生活が楽にならない理由は、この構造と物価の両方から説明できます。


理由4|「増えた」のではなく「書くようになった」面もある
見落とされがちですが、これも大きい要素です。2018年1月1日施行の改正職業安定法と、若者雇用促進法に基づく指針により、固定残業代を採用する場合は求人票への明示が求められるようになりました。
それ以前は「月給30万円」とだけ書いて、入社後に「うち8万円はみなし残業」と知らされるケースがありました。今はその内訳を書かなければなりません。
つまり、以前から使っていた企業が可視化された分も、体感的な増加に含まれています。これは読者にとっては悪い変化ではありません。比較できる情報が増えたということです。
20・30・40・45時間|どこからが「やばい」のか


固定残業代の是非は、制度そのものではなく設定されている時間数で判断できます。基準になるのは労働基準法36条の上限規制です。
| 固定残業時間 | 法律上の位置づけ | 読み取れること |
|---|---|---|
| 10〜20時間 | 原則の範囲内 | 繁忙期のみ残業、という運用が成り立つ水準 |
| 30時間 | 原則の範囲内 | 月20日勤務なら毎日1.5時間。残業が常態 |
| 40時間 | 原則の範囲内だが上限間近 | ほぼ毎日2時間の残業を見込んだ設計 |
| 45時間 | 原則の上限ちょうど | 法律が「ここまで」とした線を毎月見込んでいる |
| 45時間超 | 特別条項がなければ違法 | 年6回までの例外を毎月の前提にしている |
45時間が節目になる理由
36協定を結んだ場合の時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です(大企業2019年4月、中小企業2020年4月から適用)。
臨時的な特別の事情があって特別条項を結んだ場合でも、年720時間以内・単月100時間未満(休日労働を含む)・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)という枠があり、月45時間を超えられるのは年6回までです。違反には罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が定められています。
つまり45時間は、法律が「通常はここまで」と引いた線です。固定残業代がその線ちょうど、あるいはそれを超えて設定されているということは、会社がその働き方を通常として見込んでいることを意味します。
45時間超の固定残業代が抱える矛盾
特別条項は「臨時的な特別の事情」があるときのための例外で、使えるのは年6回までです。
ところが固定残業代は、毎月決まった額を毎月支払う仕組みです。60時間分の固定残業代を毎月払う設計は、年6回しか使えないはずの例外を12か月分見込んでいることになります。
もちろん実際には上限内に収まっているのかもしれません。ただ、求人票の時点で前提として矛盾を抱えていることは事実なので、面接で実際の平均残業時間を確認する強い理由になります。
じゃあ45時間の求人は全部アウトってこと?
アウトとまでは言えません。違法なのは超過分を払わない場合です。ただ「毎月45時間働く会社です」と宣言しているのは確かなので、その働き方を受け入れられるかという判断になります。
実質の時給に換算すると順位が入れ替わる


月給の額面だけを並べても比較になりません。同じ土俵に乗せるには、時給に直します。
計算の手順
固定残業代は割増賃金なので、基礎時給の1.25倍で計算されています。月給から基本給を逆算するには、次の式を使います。
基本給 = 月給 ÷(1 + 1.25 × 固定残業時間 ÷ 所定労働時間)
そのうえで、基礎時給=基本給÷所定労働時間、実質時給=月給÷(所定労働時間+固定残業時間)を出します。以下は所定労働時間を月160時間と仮定した試算です(実際の所定時間は就業規則によります)。
| 求人の表示 | 固定残業 | 基本給(逆算) | 基礎時給 | 実質時給 |
|---|---|---|---|---|
| 月給30万円 | 45時間 | 約22.2万円 | 約1,387円 | 約1,463円 |
| 月給25万円 | 20時間 | 約21.6万円 | 約1,351円 | 約1,389円 |
| 月給24万円 | なし | 24.0万円 | 1,500円 | 1,500円 |
見た目が一番低い求人が、時給では一番高い
月給30万円と月給24万円なら、普通は30万円を選びます。ところが時給に直すと順位が逆転します。30万円の会社は45時間の残業込みで約1,463円、24万円の会社は残業なしで1,500円です。
しかも30万円の会社は、その45時間を実際に働いたうえでの金額です。時間の自由まで含めて考えれば差はさらに開きます。
2026年度の最低賃金(全国加重平均1,177円)と比べると、月給30万円の求人の基礎時給1,387円は、思ったほど離れていません。
その固定残業代は法的に有効か|最高裁が示した条件


固定残業代は、書いてあれば必ず有効というものではありません。裁判で無効と判断され、企業が残業代を別途支払うことになった例があります。争点は大きく3つです。
条件1|通常の賃金と残業代が区別できること
基本給と固定残業代が分けられていなければなりません。テックジャパン事件(最高裁第一小法廷 平成24年3月8日判決)では、基本給を月額41万円とし、月間総労働時間180時間を超えた分だけ別途支払うという契約について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できないと判断されました。
結果として、41万円を支払っていても180時間以内の時間外労働分の割増賃金を支払ったことにはならない、とされています。
条件2|実際に残業代としての性質があること
名称が「営業手当」「業務手当」であっても構いませんが、それが時間外労働への対価でなければなりません。日本ケミカル事件(最高裁第一小法廷 平成30年7月19日判決)は、対価といえるかどうかを契約書等の記載内容のほか、使用者の説明の内容、労働者の実際の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきとしました。
この事件では、契約上その手当が時間外労働の対価と位置づけられ、支払額が実際の時間外労働の状況と大きく乖離していなかったことから、有効と認められています。
裏を返せば、設定時間と実態がかけ離れていれば否定され得るということです。40時間分と称しながら実際は毎月70時間働かせている、といった状態が該当します。
条件3|超えた分が別途支払われていること
これが最も分かりやすい判定点です。固定残業時間を超えて働いた分の割増賃金は、追加で支払う義務があります。「45時間分もらっているのだから何時間働いても同じ」という運用は、それ自体が違法です。
厚生労働省は求人の段階でも、超過分を追加支給する旨を明示するよう求めています。給与明細で自分の残業時間と支給額が突き合わせられる状態かどうかを、入社後も確認してください。
⚠️ 未払いが疑われるときの相談先
超過分が支払われていない可能性がある場合は、勤務先を管轄する労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談できます。無料で、匿名での相談も受け付けています。
この記事は一般的な情報の整理であり、個別の事案についての法律判断ではありません。実際の請求を検討する場合は、労働基準監督署や弁護士にご相談ください。
ホワイトな固定残業代の見分け方|求人票と面接


固定残業代があるというだけで候補から外すと、選択肢が狭くなりすぎます。判断材料は求人票と面接の両方から取れます。
求人票で見る|3点セットが揃っているか
厚生労働省は、固定残業代を賃金に含める場合、次の3つすべてを明示するよう求めています。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
厚労省のリーフレットには「基本給(××円)」「□□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)」「○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給」という記載例が示されています。この形に近いほど、労務管理が整っている可能性が高いと読めます。
給与欄以外の項目も含めた求人票全体の読み方は、別記事で法定項目ごとに整理しています。


面接で聞く|聞き方を変えると答えが返ってくる
「残業は多いですか」と聞くと、たいてい「部署によります」で終わります。答えが具体的になる聞き方に変えてください。
・直近1年で、この職種の月平均の時間外労働は何時間でしたか
・固定残業時間を超えた月は、実際にどのくらいの頻度でありますか
・超過分はどのように計算して支給されていますか
数字で即答できる会社は勤怠を管理できています。言葉を濁す、あるいは「みんな定時で帰っています」と実態と合わない答えが返ってくる場合は、設定時間と実態が乖離しているサインとして受け取れます。
✅ 受けてよいサイン
- 3点セットが揃っている
- 設定が20〜30時間以内
- 平均残業時間を数字で答える
- 超過分の計算方法を説明できる
❌ 確認が必要なサイン
- 超過分の記載がない
- 設定が45時間以上
- 基本給の額が書かれていない
- 「頑張り次第」で話をそらす
そもそも、求人票からは実際の残業時間まではわかりません。社内の実態を第三者から聞きたい場合は、エージェント経由で確認する方法もあります。20代・既卒・第二新卒であれば、次のようなサービスが候補になります。
なお、今の職場の残業に耐えられずに転職を考えているのであれば、同じ理由で辞めている人がどれくらいいるのかを知っておくと、判断の材料になります。


よくある質問


固定残業代とみなし残業代は違うものですか?
同じものを指す言葉として使われています。厚生労働省の資料では「固定残業代」を用い、名称にかかわらず一定時間分の時間外労働・休日労働・深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金を指す、と定義しています。
求人票で「営業手当」「業務手当」といった名称になっていても、実質が同じであれば固定残業代として扱われます。
固定残業時間まで働かなかった月は、減額されますか?
減額されません。固定残業代は残業の有無にかかわらず定額で支払われるものなので、残業が少ない月でも満額が支給されます。
厚生労働省の記載例でも「時間外労働の有無にかかわらず」と明記する形が示されています。これは労働者側にとってのメリットにあたる部分です。
固定残業代があると、賞与や退職金は減りますか?
制度の作り方によります。賞与や退職金を基本給に連動させている会社では、固定残業代の分だけ基本給が低く抑えられるため、算定の土台が小さくなります。
ただし算定基礎は就業規則や賃金規程で決まるので、応募先がどう定めているかを確認する必要があります。求人票の基本給の額は、その土台の大きさを示す数字だと考えてください。
固定残業代の設定が45時間を超えていたら違法ですか?
設定していること自体がただちに違法になるわけではありません。違法かどうかは、実際の時間外労働が36協定と上限規制の範囲に収まっているか、超過分の割増賃金が支払われているかで判断されます。
ただし月45時間を超える時間外労働は特別条項でも年6回までしか認められないため、それを毎月見込んだ設計には無理があります。面接で実際の平均残業時間を確認してください。
固定残業代がない会社を選んだほうがいいですか?
有無だけで選ぶ必要はありません。判断すべきなのは設定時間数と、超過分が支払われる運用になっているかの2点です。
20〜30時間以内で3点セットが正しく記載され、面接で平均残業時間を数字で答えられる会社であれば、固定残業代があること自体は避ける理由になりません。
逆に、固定残業代がなくてもサービス残業が常態化している職場はあります。
まとめ


✅ まとめ:固定残業代の読み方
- 増えた理由は、月給の見え方・基本給を上げない構造・残業単価の上昇・明示義務による可視化の4つ
- 判断は制度の有無ではなく設定時間。45時間は36協定の原則の上限ちょうど
- 45時間超は、年6回までの例外を毎月見込む設計で前提に矛盾がある
- 月給30万円・固定45時間の基礎時給は約1,387円。月給24万円・残業なしの1,500円を下回る
- 有効性の争点は「区別できるか」「実態と乖離していないか」「超過分を払っているか」
- 求人票は3点セット、面接は直近1年の月平均時間外労働を数字で確認する
参考・出典:厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金の答申について」(2026年9月3日公表)/厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」/厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率引上げ」/厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の①〜③の内容すべてを明示してください」(LL281209派若01)/最高裁判所第一小法廷 平成24年3月8日判決(テックジャパン事件)/最高裁判所第一小法廷 平成30年7月19日判決(日本ケミカル事件)。いずれも2026年9月15日に確認。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法律相談ではありません。具体的な事案については労働基準監督署または弁護士にご相談ください。









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