給料は上がったのに、なぜ生活が楽にならないのか。
ニュースでは「賃上げ」が続いていると言われます。実際、名目の給与総額は5年連続で増えています。それでも財布の感覚は変わらない。
理由は数字にはっきり出ています。2025年の実質賃金指数は前年比マイナス1.3%。これで4年連続のマイナスです。
この記事では、実質賃金とは何かをまず整理し、名目が上がっているのに実質が下がる仕組みと、その中で自分の手取りをどう考えるかを、厚生労働省の統計だけで解説します。
📖 この記事でわかること
- 実質賃金とは何か、名目賃金との違い
- 2025年の実数と、7年分の名目・実質・物価の推移
- 名目が上がっても実質が下がる仕組み
- 正社員とパートで下がり方が違うこと
- この状況で自分の手取りをどう考えるか
実質賃金とは|名目賃金との違いを1分で

ニュースで両方の言葉が混ざって使われるので、まず区別をはっきりさせます。ここさえ押さえれば残りは読めます。
名目と実質って、何がどう違うの?
金額そのものが名目、その金額で何が買えるかが実質だよ。
名目賃金=給与明細に書かれている金額
名目賃金は、実際に支払われた金額そのものです。2025年の現金給与総額は月355,941円(事業所規模5人以上・一人平均)で、前年比2.3%増でした。
ここには基本給だけでなく、残業代や賞与も含まれます。単純に「もらった額」なので、増えれば増えたと言えます。
実質賃金=その金額で買える量
実質賃金は、名目賃金を物価の変動で割り戻したものです。同じ金額でも、物価が上がれば買える量は減ります。その目減りを差し引いた指標が実質賃金です。
2025年は名目が2.3%増えた一方、物価が3.7%上がりました。差し引きでマイナス1.3%。給料は増えたのに、買えるものは1.3%分減ったということになります。
指数の見方|2020年を100としている
実質賃金は「指数」で表され、2020年の平均を100としています。2025年の実質賃金指数は98.0でした。
つまり2020年に買えていたものが、今は98%しか買えないという状態です。5年前を下回っている、というのがこの数字の意味になります。名目の指数は111.7なので、金額だけ見れば11.7%増えているのに、です。
使う物価指数によって数字が変わる
厚生労働省は実質賃金を2種類公表しています。持家の帰属家賃を除く総合で計算すると98.0(−1.3%)、総合で計算すると99.8(−0.8%)です。
持家の帰属家賃とは「持ち家に住んでいる人が家賃を払っていると仮定した金額」で、実際には支払いが発生しません。実際に取引されているものだけで測るなら前者、国際比較には後者、という使い分けです。ニュースで見る「実質賃金」は通常、前者のマイナス1.3%を指します。
7年分の推移|名目・実質・物価を並べて見る


3つの数字を並べると、何が起きているのかが一目でわかります。ここがこの記事の中心です。
| 年 | 名目賃金 | 実質賃金 | 物価 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | −0.4% | −1.0% | +0.6% |
| 2020年 | −1.2% | −1.2% | 0.0% |
| 2021年 | +0.3% | +0.6% | −0.3% |
| 2022年 | +2.0% | −1.0% | +3.0% |
| 2023年 | +1.2% | −2.5% | +3.8% |
| 2024年 | +2.8% | −0.3% | +3.2% |
| 2025年 | +2.3% | −1.3% | +3.7% |
2022年が転換点だった
2021年までは物価がほぼ動いていませんでした(2021年は−0.3%で、むしろ下がっています)。だから名目が+0.3%しか増えなくても、実質は+0.6%のプラスになりました。
ところが2022年に物価が+3.0%へ跳ね上がります。名目も+2.0%と伸びたのに、実質は−1.0%。ここから、名目の伸びが物価に追いつかない期間が始まります。
最悪だったのは2023年のマイナス2.5%
この7年でいちばん落ち込んだのは2023年(−2.5%)です。名目は+1.2%しか伸びなかったのに、物価が+3.8%上がりました。
2024年はいったん−0.3%まで戻します。名目が+2.8%と大きく伸びたためです。賃上げの効果自体は、確かに数字に出ていました。
2025年に再びマイナス幅が広がった
2025年は名目+2.3%と、前年の+2.8%より伸びが鈍りました。一方で物価は+3.2%から+3.7%へ加速。結果、実質は−0.3%から−1.3%へ悪化しています。
回復しかけたところで押し戻された形です。これで2022年から4年連続のマイナスとなりました。
2014年以降でプラスは3回だけ
労働政策研究・研修機構の集計によれば、賃上げが復活したとされる2014年から2025年までの12年間で、実質賃金が前年比プラスになったのは2016年(+0.8%)・2018年(+0.2%)・2021年(+0.6%)の3回だけです。
しかも、そのプラスはいずれも1%未満です。この10年あまり、実質賃金はほぼ横ばいか下降し続けている——それが長期で見たときの姿になります。
実質賃金の計算方法|自分の給料でも出せる


ニュースの数字を眺めるだけでなく、自分の給料で計算できます。式は単純です。
🧮 実質賃金指数の求め方
実質賃金指数 = 名目賃金指数 ÷ 消費者物価指数 × 100
2025年なら、名目賃金指数111.7を同じ基準の物価指数で割ることで、実質賃金指数98.0が出ます。前年比だけを見たいなら、賃金の伸び率から物価の伸び率を引くだけでおおよその値になります。
前年比なら引き算でだいたい合う
2025年は名目+2.3%、物価+3.7%でした。引き算すると−1.4ポイント。実際に公表された実質賃金の前年比は−1.3%です。
厳密には指数どうしの割り算なので完全には一致しませんが、感覚をつかむには引き算で十分です。自分の昇給率から物価上昇率を引けば、実質でどうだったかがすぐ分かります。
自分の給料で計算してみる
昨年の年収が400万円、今年が410万円なら、昇給率は2.5%です。2025年の物価上昇率3.7%を引くと−1.2%。
金額は10万円増えているのに、実質では目減りしている計算になります。「上がったから大丈夫」で終わらせず、この引き算を一度やってみてください。判断の材料がはっきりします。
物価上昇率はどこで見るか
消費者物価指数は総務省が毎月公表しています。実質賃金の計算に使われているのは「持家の帰属家賃を除く総合」で、2025年は+3.7%でした。
ニュースでよく報じられる「総合」は+3.2%で、こちらを使うと実質は−0.8%になります。どちらの指数を使ったかで結果が変わるので、比べるときは揃えてください。数値は毎年更新されるため、最新値は総務省の公表資料で確認するのが確実です。
手取りは、さらにここから引かれる
注意したいのは、実質賃金が税や社会保険料を引く前の金額で計算されている点です。実際の生活実感は手取りベースなので、負担率が上がればさらに厳しくなります。
統計上の実質賃金がマイナス1.3%でも、体感としてはそれ以上に苦しく感じることがあるのは、この差も一因です。自分の家計で見るときは、給与明細の総支給額ではなく振込額で比べたほうが実感に近くなります。
なぜ名目が上がっても実質が下がるのか


仕組み自体は単純です。ただ、そこから見えてくることがいくつかあります。
🧮 2025年の引き算
給料の伸び
+2.3%
物価の伸び
−3.7%
手元に残る
−1.3%
給料が2.3%増えても、物価が3.7%上がれば1.4ポイント分足りません。実際の指数計算では−1.3%になります。
賃上げが足りないのではなく、物価の伸びが速い
名目賃金は5年連続で前年比増です。2022年+2.0%、2023年+1.2%、2024年+2.8%、2025年+2.3%と、上げ幅も過去の水準から見れば小さくありません。
それでも実質がマイナスなのは、物価が3%台で走り続けているからです。「賃上げが起きていない」わけではなく、「物価に勝てていない」——この区別は大事です。
賞与を除くと、もっと厳しい
現金給与総額から夏冬の賞与など「特別に支払われた給与」を除いた「きまって支給する給与」で見ると、実質は−1.6%。総額の−1.3%より悪くなります。
特別給与は68,514円で+3.8%と大きく伸びました。毎月の固定的な給与より、賞与のほうが伸びているということです。月々の生活実感が改善しにくい理由が、ここにも表れています。
正社員とパートで下がり方が違う
一般労働者(おおむね正社員)は名目+2.9%・実質−0.7%。パートタイム労働者は名目+2.3%・実質−1.3%です。
ただしパートの時間当たり所定内給与は1,394円で+3.8%と、3年連続で3%を超える伸びを見せています。時給は上がっているのに月収ベースで負けるということは、働ける時間のほうが抑えられている可能性を示唆します。
会社の規模でも差がある
事業所規模30人以上では、現金給与総額が月408,035円で+2.6%。実質は−1.0%で、5人以上(−1.3%)よりマイナス幅が小さくなります。
差はわずかですが、規模が大きいほうが物価に対して踏みとどまっている傾向はあります。名目でも408,035円と355,941円で5万円以上の開きがあり、この差自体が転職の判断材料になる場面もあります。
30年で見ると|1997年のピークをまだ下回っている


直近の数年だけでなく、もっと長い目盛りで見るとどうなっているか。ここが日本の賃金問題の本体です。
| 年 | 月間現金給与総額(名目) |
|---|---|
| 1990年 | 329,443円 |
| 1995年 | 362,510円 |
| 1997年 | 371,670円(ピーク) |
| 2000年 | 355,474円 |
| 2010年 | 318,307円 |
| 2015年 | 315,856円 |
| 2020年 | 318,405円 |
| 2023年 | 329,777円 |
| 2025年 | 355,941円 |
1997年のほうが今より高いって、どういうこと……?
物価を考える前の、金額そのものの話だよ。これが日本の30年。
ピークは1997年の371,670円
月間現金給与総額が最も高かったのは1997年の371,670円です。2025年は355,941円なので、28年前の水準にまだ届いていません。
これは物価を考慮する前の、金額そのものの比較です。実質で見れば差はさらに開きます。「失われた30年」という言い方は、賃金に関しては比喩ではありません。
底は2012〜2015年の31万円台半ば
1997年から下がり続け、2012年の315,334円、2015年の315,856円あたりが底でした。ピークから5万5千円以上減った計算になります。
そこから2020年318,405円、2023年329,777円と持ち直し、直近2年で大きく伸びました。回復傾向は本物ですが、失った分を取り戻す途中という位置づけです。
氷河期世代が働き始めたのは、ちょうどピークの直後
1993〜2004年に就職活動をした世代は、賃金がピークをつけて下り坂に入る局面で社会に出ています。1997年の371,670円から2004年の333,427円まで、7年で3万8千円以上下がった時期です。
入口が狭かっただけでなく、入ったあとの賃金カーブそのものが下向きだったということになります。この世代の実感が統計と一致するのは当然だと言えます。
この数字を読むときの注意
毎月勤労統計調査の長期系列は、複数の資料を接続して作られており、調査対象の入替えなどの影響を受けます。統計を公表している労働政策研究・研修機構も、複数の統計表から転記して作成したものだと明記しています。
したがって、年をまたぐ金額水準の比較は「おおよその傾向」として読むのが正しいです。ただし1997年と2025年の差は約1万6千円あり、傾向としての結論は変わりません。
この状況で、自分の手取りをどう考えるか


マクロの数字は自分で動かせません。動かせるのは、その中での自分の位置だけです。
まず「昇給率が3.7%を超えているか」を見る
2025年の物価上昇率は3.7%でした。自分の昇給がこれを下回っていれば、実質的には減給です。
「上がったからよかった」で終わらせず、去年の給与明細と比べて何%上がったかを一度計算してみてください。全体平均は+2.3%なので、それを下回っているなら平均以下ということになります。判断の出発点はここです。
転職では4割が賃金を上げている
厚生労働省の雇用動向調査では、転職した人のうち賃金が増加した人が40.5%、減少が29.4%で、増加が減少を11.1ポイント上回りました。増加した人の割合はこの10年で最も高い水準です。
実質賃金が全体で−1.3%という中では、社内の昇給だけで物価に追いつくのは簡単ではありません。転職が唯一の答えではありませんが、選択肢として計算に入れる価値はあります。
年代別に転職でどれくらい賃金が動いたかは、別の記事で詳しくまとめています。


「給料が理由」の転職は多数派に近い
同じ調査で、前職を辞めた実質的な理由の1位は男性が給料等収入が少なかった(10.1%)。25〜29歳男性では16.9%まで上がります。前年からの伸び幅も大きい項目でした。
収入を理由に動くことは、後ろめたい選択ではありません。物価が3.7%上がる環境では、むしろ合理的な反応です。
ただし年代によって前提が変わる
転職で賃金が増えた人の割合は45〜49歳で46.4%(増減差+22.6ポイント)と全年代で最良ですが、55〜59歳では増減差が−9.2ポイント、60〜64歳では−47.3ポイントに反転します。
実質賃金がマイナスだから動くべき、と一律には言えません。自分の年代の数字を確認したうえで判断してください。なお統計は毎年更新されるので、最新値は厚生労働省の公表資料で確認するのが確実です。
「上がった」で安心しないで、物価と比べるのが大事なんだね。
転職理由のランキングと面接での伝え方は、別の記事で年代別に整理しています。


給与の内訳そのものがどう決まっているかは、基本給の記事で整理しています。


よくある質問


実質賃金とは何ですか?
名目賃金(実際に支払われた金額)を物価の変動で割り戻し、その金額で買える量を示した指標です。2020年平均を100とする指数で表され、2025年は98.0でした。
名目賃金の指数は111.7なので、金額は5年前より11.7%増えているのに、買える量は2%減っているという状態です。
実質賃金は何年連続でマイナスですか?
2025年時点で4年連続のマイナスです。2022年−1.0%、2023年−2.5%、2024年−0.3%、2025年−1.3%と推移しています。
直近でプラスだったのは2021年の+0.6%です。さらに遡ると、2014年から2025年の12年間でプラスになったのは2016年・2018年・2021年の3回だけでした。
賃上げは本当に行われているのですか?
行われています。名目の現金給与総額は5年連続で前年比増で、2025年は月355,941円・前年比2.3%増でした。問題は賃上げの有無ではなく、物価の上昇率3.7%に追いついていないことです。
「賃上げが起きていない」のではなく「物価に勝てていない」というのが正確な状況です。
実質賃金の数字がニュースによって違うのはなぜですか?
実質化に使う消費者物価指数が2種類あるためです。厚生労働省は「持家の帰属家賃を除く総合」で計算した98.0(−1.3%)と、「総合」で計算した99.8(−0.8%)の両方を公表しています。
前者は実際に取引されている財・サービスに限定したもの、後者は国際比較用です。一般に報道される実質賃金は前者を指します。
自分の給料が実質で下がっているか、どう判断すればいいですか?
昨年と今年の年収または月収を比べて上昇率を計算し、その年の物価上昇率と比較してください。2025年の物価上昇率は3.7%だったので、昇給が3.7%未満なら実質的には目減りしています。
全体の名目上昇率は2.3%なので、それを下回っていれば平均以下ということになります。物価上昇率は年ごとに変わるため、最新値は総務省や厚生労働省の公表資料で確認してください。
まとめ


✅ まとめ:実質賃金のポイント
- 2025年の実質賃金は前年比−1.3%で4年連続マイナス
- 実質賃金指数98.0=2020年の水準を下回っている
- 名目は+2.3%で5年連続増。賃上げ自体は起きている
- 物価が+3.7%と上回ったため、買える量は減った
- 賞与を除く「きまって支給する給与」では−1.6%とさらに厳しい
- 2014〜2025年でプラスは2016・2018・2021年の3回だけ
- 自分の昇給率が3.7%を超えているかで、実質の増減を判断できる
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」(2026年2月25日公表)/「令和6年 雇用動向調査」/労働政策研究・研修機構。確認日 2026年9月13日。統計は毎年更新されます。




コメント