「月給30万円」の中身、説明できますか。
同じ月給30万円でも、基本給が30万円の人と、基本給20万円+手当10万円の人では、残業代も賞与も退職金も変わります。
基本給はただの内訳ではありません。残業単価の計算基礎になり、賞与の算定基礎になり、退職金の算定基礎にもなるすべての土台です。
この記事では、基本給・手当・賞与の関係を労働基準法の条文と厚生労働省の統計から整理します。求人票を読むときにも、転職の条件を比べるときにも効きます。
📖 この記事でわかること
- 基本給とは何か、月給・所定内給与との違い
- 残業代の計算に入る手当と、入らない手当(法律で7つに限定)
- 役職手当や資格手当は残業代に「必ず入る」という事実
- 賞与や退職金が基本給に連動する仕組み
- 所定内給与の平均は33.0万円という基準
基本給とは|月給・所定内給与との違い

給与明細に並ぶ言葉は似ていて紛らわしいのですが、指している範囲がそれぞれ違います。
| 用語 | 含まれるもの |
|---|---|
| 基本給 | 手当を一切含まない、給与の土台部分 |
| 所定内給与 | 基本給+役職手当・資格手当などの諸手当(残業代は含まない) |
| きまって支給する給与 | 所定内給与+残業代などの超過労働給与 |
| 現金給与総額 | 上記+賞与などの特別に支払われた給与 |
| 手取り | 現金給与総額から税・社会保険料を引いた額 |
月給って書いてあっても、中身は会社ごとに違うんだ?
そう。だから比べるときは総額じゃなくて基本給を見るんだよ。
基本給は「手当を含まない土台」
基本給は、役職手当も住宅手当も残業代も含まない、給与の一番下の層です。ここが動くと、その上に乗るものがまとめて動きます。
逆に言えば、手当をいくら増やしても基本給が上がらなければ、残業単価も賞与も退職金も増えないことがあります。昇給の話をするときに「基本給が上がるのか」を確認すべきなのはこのためです。
統計でよく使われるのは「所定内給与額」
厚生労働省の賃金構造基本統計調査でいう「賃金」は、所定内給与額のことです。定義は「あらかじめ定められた支給条件・算定方法により支給された現金給与額から、超過労働給与額を差し引いた額」。
超過労働給与額とは、①時間外勤務手当 ②深夜勤務手当 ③休日出勤手当 ④宿日直手当 ⑤交替手当の5つです。基本給に諸手当を足して、残業代を引いたものと考えると分かりやすくなります。所得税等を引く前の金額です。
所定内給与の平均は33.0万円
令和6年の賃金構造基本統計調査では、一般労働者の所定内給与額は男女計330.4千円、男性363.1千円、女性275.3千円でした。男女間賃金格差は男性を100として75.8です。
推移を見ると2013年295.7千円が底で、2022年311.8千円、2023年318.3千円、2024年330.4千円と直近で伸びています。自分の所定内給与がこの33.0万円に対してどの位置かを知っておくと、条件を比べるときの物差しになります。
基本給の割合が低い会社もある
法律は基本給と手当の比率を決めていません。月給30万円のうち基本給18万円、手当12万円という設計も可能です。
この場合、残業単価も賞与も18万円を基準に計算されることがあります。求人票では月給の総額しか目に入りませんが、内訳を見ないと実質的な条件は分かりません。内定時の労働条件通知書で必ず確認してください。
手当の扱い|残業代に入るものと入らないもの


ここが最も誤解されている部分です。手当は「残業代の計算から外していいもの」が法律で決まっており、しかもそれは限定列挙です。
➖ 外してよい(7つだけ)
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
➕ 必ず入れる(例)
- 役職手当
- 資格手当
- 営業手当
- 精勤・皆勤手当
- 地域手当
- その他、上記7つ以外のすべて
条文にはこう書いてある
労働基準法施行規則第21条は「法第37条第5項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない」として、別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の5つを挙げています。
家族手当と通勤手当を合わせて合計7つ。これが全部です。ここに書かれていない手当は、残業代の計算基礎に含めなければなりません。
役職手当・資格手当は必ず入る
7つのリストに役職手当も資格手当も営業手当も入っていません。したがって、これらは残業単価の計算に含める必要があります。
「うちは基本給だけで残業代を計算している」という会社があれば、それは正しくない可能性があります。給与明細で、残業単価が基本給だけから計算されていないかを一度確かめてみる価値があります。
名前ではなく中身で判断される
注意したいのは、手当の名称ではなく実態で判断されるという点です。「住宅手当」という名前でも、住宅費に関係なく全員に一律で支給しているなら、除外できないと解されるのが一般的です。
逆に家族の人数に応じて支給される家族手当は、除外の対象になります。個々の判断はケースによるので、疑問がある場合は労働基準監督署や労働局の相談窓口で確認してください。
求人を比べるときの見方
A社「基本給28万円+役職手当2万円」とB社「基本給20万円+住宅手当10万円」。月給はどちらも30万円ですが、残業単価の基礎はA社30万円、B社20万円になります。
賞与が「基本給の◯か月分」ならさらに差が開きます。総額が同じでも、実際に受け取る年収は変わり得るということです。
求人票で給与欄をどう読むかは、別の記事で項目ごとにまとめています。


給与明細の見方|支給・控除・勤怠の3ブロック


給与明細はどの会社でもだいたい3つの区画でできています。構造を知れば、毎月確認すべき場所が絞れます。
| 区画 | 載っているもの | 見るポイント |
|---|---|---|
| 勤怠 | 出勤日数、労働時間、残業時間、有給残日数 | 残業時間が実態と合っているか |
| 支給 | 基本給、各種手当、残業代、通勤費 | 基本給と手当の内訳、残業代の単価 |
| 控除 | 健康保険、厚生年金、雇用保険、所得税、住民税 | 金額が急に変わっていないか |
支給の合計が「額面」
支給欄の合計が額面(総支給額)で、そこから控除欄の合計を引いたものが手取り(差引支給額)です。
求人票や年収の話で出てくるのはほぼ額面のほうです。生活の実感は手取りで動くので、条件を比べるときは両方を意識する必要があります。控除される割合は収入や扶養の状況で変わるため、一律の目安を当てはめるより自分の明細で確かめるのが確実です。
控除は大きく分けて社会保険料と税金
控除欄に並ぶのは、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料といった社会保険料と、所得税・住民税という税金です。40歳以上になると介護保険料も加わります。
社会保険料は標準報酬月額という区分をもとに決まり、住民税は前年の所得に対してかかります。転職して収入が下がった年に住民税が重く感じるのは、前年分の課税だからです。
毎月見るなら残業時間と残業代の2か所
全項目を毎月チェックする必要はありません。優先度が高いのは勤怠欄の残業時間が実際の労働時間と合っているかと、支給欄の残業代がその時間に見合っているかの2点です。
残業代を残業時間で割れば、実際に適用されている単価が出ます。基本給だけから計算されていないかを確かめる手がかりになります。
明細は捨てずに残しておく
給与明細は、後から未払いを確認したり、転職時に前職の条件を説明したりする場面で使います。電子明細ならダウンロードして保存しておくのが安全です。
退職後は会社のシステムにアクセスできなくなることがあります。辞めると決めたら、在職中に過去分をまとめて手元に落としておく——これは実際にやっておいてよかったと思った作業のひとつです。
残業代の計算|割増率は法律で決まっている


基本給が効いてくる最も分かりやすい場面が残業代です。割増率は労働基準法第37条に定めがあります。
| 種類 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働(法定時間を超える労働) | 25%以上 |
| 時間外労働のうち月60時間を超える部分 | 50%以上 |
| 休日労働(法定休日の労働) | 35%以上 |
| 深夜労働(22時〜5時) | 25%以上(別途加算) |
計算の順番
まず1時間あたりの賃金を出します。所定内給与(除外できる7つの手当を引いたもの)を、1か月あたりの所定労働時間で割ります。
そこに割増率をかけたものが残業単価です。分子が大きいほど単価が上がるので、基本給と手当の内訳がここで効いてきます。
月60時間を超えたら5割以上
条文は「当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」としています。
25%ではなく50%です。残業が月60時間を超える月は、超過分の単価が倍近くになります。給与明細でこの区別がされているかは、確認する価値がある部分です。
固定残業代でも超過分は別途支払われる
固定残業代(みなし残業)を採用している場合でも、設定された時間を超えた分の割増賃金は追加で支給する必要があります。厚生労働省は求人票の記載例として、この点を明示するよう示しています。
「40時間分込みだから何時間働いても同じ」ではありません。40時間を超えた分は別に払われるのが本来です。明細で超過分の支給欄があるかを見てください。
おかしいと思ったら相談先がある
計算方法に疑問がある場合、労働基準監督署や各都道府県労働局の相談コーナーで相談できます。費用はかかりません。
個別の事情によって結論が変わるので、この記事の内容だけで判断せず、給与明細と就業規則・賃金規程を持って窓口で確認するのが確実です。会社に直接聞く前に、外部で自分の理解が正しいかを確かめておくと落ち着いて話せます。
最低賃金と基本給|月給制でも確認できる


最低賃金はパートやアルバイトだけの話ではありません。月給制の正社員にも適用されます。
正社員にも最低賃金は適用される
地域別最低賃金は、その地域で働くすべての労働者に適用されます。雇用形態を問いません。月給制であっても、時間あたりに換算した金額が最低賃金を下回ってはいけません。
令和7年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円とされています(前年度1,055円から66円の引上げ)。金額と発効日は都道府県ごとに異なるので、自分の地域の額は厚生労働省の一覧で確認してください。
時給に換算して比べる
月給制の場合は、対象になる賃金を1か月あたりの所定労働時間で割って時給に換算し、その地域の最低賃金と比べます。
ここでも効いてくるのが内訳です。最低賃金の計算に含めない賃金が定められており、残業代や賞与などは対象から外れます。何が含まれて何が外れるかは細かい定めがあるため、判断に迷う場合は労働基準監督署や労働局に確認してください。
最低賃金の上昇が基本給を押し上げている
66円の引上げは、目安制度が始まって以降で最も大きい上げ幅とされています。下限が上がれば、その近くの賃金帯も引き上げざるを得なくなります。
実際、パートタイム労働者の時間当たり所定内給与は1,394円で前年比3.8%増と、3年連続で3%を超える伸びを見せています。賃上げの実感が最も出ているのは、実は時給で働く層だという見方もできます。
下回っていた場合はどうなるか
最低賃金を下回る賃金で契約していた場合、その部分は無効となり、最低賃金額で定めたものとみなされます。つまり差額を請求できる関係になります。
まず自分の地域の最低賃金額を確認し、時給換算して比べる。下回っていそうなら、給与明細と就業規則を持って労働基準監督署に相談するのが確実です。相談に費用はかかりません。
賞与と退職金|基本給に連動する仕組み


賞与と退職金には、残業代のような法律上の計算ルールがありません。だからこそ会社の規程が効きます。
賞与に法律上の支給義務はない
労働基準法は賞与の支給を義務づけていません。支給するかどうか、いくらにするかは、就業規則や賃金規程などの定めによります。
就業規則等で「基本給の◯か月分」と定めていれば、それに従って支払われます。この形の会社では、基本給が低いほど賞与も自動的に低くなります。手当を厚くして基本給を抑える設計が、ここで効いてきます。
賞与も現金給与総額に含まれる
統計上、賞与は「特別に支払われた給与」として現金給与総額に入ります。2025年の特別に支払われた給与は月平均68,514円で前年比3.8%増でした。
これは同じ年の「きまって支給する給与」の伸び(+2.0%)を上回ります。毎月の固定的な給与より、賞与のほうが伸びているのが直近の傾向です。月々の生活実感が改善しにくい理由のひとつでもあります。
退職金も基本給ベースが多い
退職金も法律上の義務ではなく、制度の有無も算定方法も会社ごとに違います。ただし「退職時の基本給×勤続年数に応じた係数」という形を採る会社が多く、この場合は基本給が最後まで効き続けます。
就業規則や退職金規程は、労働基準法により従業員が見られる状態にしておく必要があります。長く勤めるつもりなら、一度は自分の会社の条文を読んでおく価値があります。
転職の条件交渉では基本給を軸にする
提示された年収が同じでも、基本給が高い会社のほうが、その後の残業代・賞与・退職金で有利になります。
転職した人のうち賃金が増えた人は40.5%で、減った29.4%を11.1ポイント上回っています。せっかく交渉できる立場にあるなら、総額だけでなく「基本給をいくらにしてもらえるか」を確認するのがおすすめです。
総額が同じでも、中身で後からこんなに変わるんだね。
給料が実質的に増えているのかどうかは、物価と合わせて見る必要があります。


退職時に残った有給がどう扱われるかは、別の記事でまとめています。


よくある質問


基本給とは何ですか?
役職手当や住宅手当、残業代などを一切含まない、給与の土台となる部分です。
残業単価の計算基礎になり、賞与が「基本給の◯か月分」と定められていればそこにも直結し、退職金の算定基礎としている会社も多くあります。
月給の総額が同じでも、基本給が違えば実際に受け取る年収は変わり得ます。
残業代の計算から外していい手当は何ですか?
労働基準法第37条第5項と労働基準法施行規則第21条により、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の7つに限定されています。これ以外の手当は割増賃金の基礎に算入しなければなりません。
役職手当は残業代の計算に入りますか?
入ります。施行規則第21条の除外リストに役職手当は含まれていないためです。資格手当や営業手当も同様で、これらを除いて残業単価を計算している場合は正しくない可能性があります。
ただし手当は名称ではなく実態で判断されるため、個別の判断は労働基準監督署や労働局の相談窓口で確認してください。
残業が月60時間を超えるとどうなりますか?
労働基準法第37条第1項ただし書により、1か月について60時間を超えた時間外労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
60時間までの25%以上と比べて割増率が上がるため、給与明細でこの区別がされているかを確認する価値があります。
所定内給与の平均はいくらですか?
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の所定内給与額は男女計330.4千円、男性363.1千円、女性275.3千円でした。男女間賃金格差は男性を100として75.8です。
所定内給与額とは、あらかじめ定められた支給条件により支給された現金給与額から、時間外・深夜・休日出勤手当などの超過労働給与額を差し引いた額を指します。
まとめ


✅ まとめ:基本給と手当の関係
- 基本給は手当を含まない土台。残業代・賞与・退職金の基礎になる
- 残業代の計算から外していい手当は法律で7つに限定されている
- 役職手当・資格手当・営業手当は必ず計算に入れる
- 手当は名称ではなく実態で判断される
- 時間外は25%以上、月60時間超は50%以上、休日は35%以上
- 固定残業代でも設定時間を超えた分は別途支払われる
- 所定内給与の平均は男女計33.0万円(男36.3万円・女27.5万円)
出典:労働基準法第37条/労働基準法施行規則第21条/厚生労働省「令和6年 賃金構造基本統計調査」「毎月勤労統計調査2025年分結果確報」「令和6年 雇用動向調査」。確認日 2026年9月13日。個別の判断は労働基準監督署などの窓口でご確認ください。




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